SYU's TraveLog.


登録09.05.05
4日目・ベネチア観光


アクアおじさんに会った後は、残った時間でベネチアを観光することにした光君。

しばらく二人が歩いていると、ゴンドラ(渡し舟スタイル)を発見した。

通常のゴンドラとは異なり、複数の客が同時に乗り、また、船乗りも二人組みである。

これは観光を目的としたものではなく、簡単に対岸に渡るための手段として用いられる。

勿論値段も安い(水上バスほどではないが)。


「光君、これ、乗ってみない?」

「えー・・・いいよ。高そうだし。」

「何を言ってるんだ光君。せっかくベネチアに来てゴンドラに乗らないなんてもったいないじゃないか。」


土屋先生、実際のところは、あまりにも長く歩きすぎたために、駅まで戻るのがしんどい距離になってしまったと思ったのである。このタイミングでは、電車に乗り過ごし、さらにユースホステルに空きがない場合、ほかのホテルを探すのが大変な時間になってしまう。

どんな無茶でもできる限り許容する土屋先生だが、だからといって野宿をよしとするわけではない。


「だってさぁ、ぜってーたけーから。いやもう、間違いねーって。」

「・・・いやまぁ聞いてみるだけね。」




『おにいさん、向こう岸までいくらかかる?』

例によってルーマニア語で渡し舟のお兄さんに話しかける土屋先生。

『セニョール、1ユーロ50セントです。せっかくだから乗りませんか?向こう岸に行く用事がないならそのまま戻ってくればいい。』

渡し舟のお兄さんは英語で答えてきた。

さすがに観光客相手の商売をしているだけある。

「光君、1.5ユーロだって。記念に乗るべさ。」

「うん、まぁその値段なら」

土屋先生に同意する光君。

もちろん彼は彼で自分が進んでいる場所を把握しているつもりなのだろうが、そうは問屋がおろさない。

ベネチアの曲がりくねった道ですでに 二人とも自分のいる位置を把握できなくなってしまっていたのだ。

土屋先生は直感的にそれを感じて光君を誘導しているようだが、実際のところ彼も意識しての行動ではない。




二人が乗るゴンドラは、実の名を トラゲットという。

これは前後に二人の船頭がつくスタイルの渡し舟である。

もちろん観光名所のひとつでもあり、船に乗って記念撮影をする人もちらほら。

そして二人は・・・

もっとも渡ってはならない海を渡ってしまったのだった。

二人はベネチア・サンタルチア駅からほぼまっすぐ南西に向かい歩いていたのだが、渡し舟に乗ってしまったために、駅に戻るために非常に長い道のりを進まなければならない対岸へと渡ってしまったのだ。

船が対岸に着き、駅を目指して迷い始めた二人だが・・・


光君:ツッチー、この辺てティラミスがうまいんだよね?

土屋先生:残念ながら光君、その店は結構遠いとアクアおじさんが言っていたのだよ・・・

光君:そうなの?

土屋先生:残念ながら・・・まぁ・・・その辺で食ってく?


そんなやり取りをしながら二人は、近くのレストランに足を踏み入れた。




スパゲッティーボロネーゼ、いわゆるミートソースというものにあたるスパゲッティーはお値段8ユーロ。

アサリの入ったボンゴレ・ビアンコが10ユーロだ。


土屋先生:光君、どうする?

光君:んー・・・俺はボンゴレビアンコかな。ツッチーは?

土屋先生:僕はボロネーゼかな。こいつが一番味の比較をしやすいし。


その次の瞬間、メニューの値段を見た光君の目が光る。

その値段の差、2ユーロに土屋先生の悪意を感じたようだ。


光君:やっぱり俺もボロネーゼにする!!


そんな光君を不思議そうな目で見る土屋先生。

今回は珍しく、彼には悪意がなかったのだ。

せっかくだから別のものを頼んで、シェアできればという考えであったのだが、今回は光君の深読みだったようだ。


そして・・・パスタが出てきて・・・


土屋先生:・・・

光君:・・・アルデンテって・・・どこの国の言葉だゴルァ!!

土屋先生:・・・確か日本語だ。そういえば日本ほどアルデンテ(固ゆで)にこだわる国はないと聞いたことがあるよ、光君。


二人がもそもそ食べるスパゲッティーは・・・まるでうどんのような懐かしい食べ心地。

明らかに ゆですぎなパスタを黙々と食べる二人。


スパゲッティーを食べ終えた二人は、口直しにティラミスを注文する。

そして・・・


光君:ツッチー、これ めっちゃうまい!!


ベネチアで食べるティラミスというだけで、美味しさが数倍に感じる光君。

しかし、それを冷静な目で見ながらため息をつく土屋先生。


土屋先生:すまん光君、ここ、激失敗だ・・・本当のティラミスはこんなものではないよ・・・


そう言って再びため息をつく土屋先生。


光君:え・・・あ・・・そうなの?うまいよ、これ。十分。

土屋先生:・・・うん、それなら良かった・・・まぁ次は・・・うまくやるよ・・・


どうにもしっくりこない口調の土屋先生。

どうやら光君に 彼の基準でのおいしいティラミスを食べさせることができなかったことが残念でならないようだ。



そんな二人を見ていた老夫婦が隣の席から英語で声をかけてきた。


おじさん:お二人さん、日本人かい?

光君:ん?そうだよ?

おばさん:ずいぶん若く見えるけど、こちらには旅行に来たのかしら?

土屋先生:ああ、授業の一環で連れてきました。私、彼の先生です。

おばさん:まぁまぁ若いのにがんばってるのねぇ。


何気ない会話だが、和やかな雰囲気に包まれるテーブル。

・・・だが・・・


光君:そういやおじさん、駅までいきたいんだけどさぁ。ここからどのくらい?

おじさん:そうだなぁ。船で20分てとこかな。

光君:いや、歩いていこうと思うんだけど。

おばさん:あらぁ・・・歩くと遠いわよ。一時間くらいかかるかしらねぇ。

光君:マジかよ!!(日本語)


あわてて時計を見る二人。

電車の発車時刻まではすでに1時間を切っている。


土屋先生:ありがとうございます、僕達急いでいますのでここらで失礼いたします。

おじさん:お若いの、頑張ってな。

土屋先生:頑張るのは彼の役目で私はお目付け役ですが、精一杯頑張らせます。お会いできて良かった。いずれまた、世界のどこかで。


少々的外れな挨拶をしてその場を去る二人。

もちろんチップは少なめだ。



店を出て、まず青い顔になる光君。


光君:どうしようツッチー!!

土屋先生:調べておけと・・・

光君:あーあーあー!!分かった!!分かりましたよ!!でもどうしたら・・・


いつも通りの反応の土屋先生を前に一瞬べそをかきそうになる光君だったが・・・


光君:・・・いや、時間がないな。とりあえず歩こう。ツッチー。


かぶりを振って、前を向く光君。困難に直面したときの精神の切り替えがうまくなってきたようだ。

そして歩くこと10分程度。


光君:ツッチー・・・

土屋先生:何かね?

光君:どこを歩いているのか 皆目検討つきません・・・


腹を抱えて笑い出す土屋先生。

しかし残り時間は少ない。


土屋先生:・・・仕方ない、バポレット(水上バス)に乗って行くか?

光君:でも予算が・・・

土屋先生:仕方がなかろう。背に腹は変えられんだろう?


バポレット、一番安い一時間券でも1000円近くする。

もちろん水上タクシーなどは問題外だ。

仕方なしにバポレット乗り場に移動する光君。

しかし・・・そこにはチケット売り場がない。


光君:どうしよう、ツッチー、切符が買えないよ。

土屋先生:・・・


光君の言葉にしばし黙る土屋先生。


光君:ツッチー?

土屋先生:・・・どうする?

光君:どうするって・・・どうにもならないじゃん!!

土屋先生:いや、『僕が何とかしていいか?』ということなのだけど?

光君:どうにかなるの?


光君の言葉に、にやっと笑う土屋先生。

注意:ここから先しばらくは、事実に可能な限り基づいたフィクションです。犯罪にかかわるようなことはたぶんおそらくしていなかったと思います。



バポレットに乗る前に土屋先生が光君に命じた事は以下の5つ。

1.常に外の景色を見ておくこと

2.財布の中身を見ないこと

3.土屋先生の顔を見て話しかけないこと

4.他人と目が合ったら必ず笑顔を見せること

5.船から下りるまで質問禁止

である。


バポレットに乗る際に土屋先生が船乗りに2・3話しかけただけで、無事に二人は船に乗ることができたのだが、なんとも不思議な指示である。


光君:ツッチー、何でさぁ・・・

土屋先生:・・・俺の顔を見ながら話すなと言ったはずだが?


そう言いながら光君には顔を向けない土屋先生。

船から身を乗り出すようにしてあたりをキョロキョロ見ている土屋先生。その姿はまるでおのぼりさんのようだ。



「ほらほら、あれが 何とか橋だ。確かかなり有名な橋だぞ。」


そう言って光君の腕を引っ張り船の端に連れて行く土屋先生。

その姿は船員の目にも映っているが、それは彼らにとってはごく普通の光景なのだろう。

ちなみに橋の本名は リアルト橋という。


光君:ちょっとツッチー、変だよ?


そう言いながら再び土屋先生の方を見ようとする光君。


土屋先生: なぁ?何度言ったら分かる?俺のほうを見て話すんじゃねぇと・・・景色でも眺めてろ。


かなりドスのきいた声で言う土屋先生。

これには光君もびびったらしく、あわててそっぽを向く。


土屋先生:そうだ。よく目に焼き付けとけ。




そんな二人を乗せてバポレットはベネチア・サンタルチア駅への短い旅を終える。


船を下りて大きく息をつく土屋先生。

そしてその後を小走りでついてくる光君。


光君:ツッチー、結局なんだったのよ?

土屋先生: 無賃乗車だ。

光君:・・・え?

土屋先生:だって切符買わなかったろう?

光君:いやでも、船員の人に何か話してなかった?

土屋先生:うむ。『この船に乗ると有名な橋の下を通りますよね?』とか話してたぞ。

光君:・・・え、『乗っけてくれ』とか言ってたんじゃないの?

土屋先生:船に乗ってはしゃいでる バカが無賃乗車してるとは 夢にも思わないだろ?

光君:それってもしそうじゃなかったらどうするつもりだったの?

土屋先生:ここはそういう場所なんだよ。


そう言って遠い目をする土屋先生。

どうやら過去に何かあった模様だが・・・

とにもかくにも無事に駅に着いた二人。

これでベネチアともおさらばだ。



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