SYU's TraveLog.
登録08.04.18
4日目・ニース、制限時間は1時間
ニース駅に到着。
えっちらおっちら自転車をおろす光君。
とりあえずは客の流れに沿って改札を目指す二人。
ヨーロッパでは検札意外でチケットを見せることもほとんどないので、拍子抜けするほどあっさりと外に出ることが出来る。
「さて、これからどうしようか?」
「ん?どうするって・・・待ってるに決まってるじゃん。ここで。」
「・・・ちょっとまて、ちょっと待てよ光君。ニースだよ?ニース。フランスでも有名な別荘地のニース。海岸まで出てみようとか思わないのか?」
「えー、でもさぁ。何かあったらいやだし。」
今日も朝からふぬけ根性爆裂な光君。
横でしばし頭を抱える土屋先生。
「・・・いや、行こう。行くべきだと思うぞ。君のお父さんが船好きだから写真とか撮っていってあげたら喜ぶかもしれないし。」
今回の旅行では(痛いのもふくめて)可能な限りの経験を光君に積ませたい土屋先生は、なんとか光君を外に連れ出そうとする。
なにより、
『俺フランス行ったぜ。』
『へぇ、どこどこ?』
『パリとかニースとか。』
『ああ、ニース。俺も行ったよ。きれいな街だろう?』
『いや、怖くて駅から出て行かなかった。』
みたいなやり取りがあったら余りにも切ない。
その割にはパリで美術館をスルーしまくったりしているのだが、これは笑い話ですむレベルだと土屋先生は考えているようだ。
「えー・・・わかったよ。じゃあ10分ね。10分たったら引き返すからね。」
「・・・まぁいい。そうしよう。」
しぶしぶ走り出す光君と、なんとか光君をその気にさせたことに胸をなでおろす土屋先生。
「でもさぁ・・・」
再び口を開く光君。
「海まで何キロあるかわかんないじゃん。」
「・・・」
確かに光君の言うとおりだ。
しかし当たり前のことだが、どんな街でも駅の近くには必ず地図があるはずなのだ。
それを確認しないで、言われたから仕方なくいやいや走っているのはどうだろう?
ちなみに、土屋先生はばっちり地図を確認している。
「ねぇツッチー?やっぱ戻んない?」
「・・・海のにおいがする。こっちだ。」
これからの旅で、光君が『地図を探す必要性』を『自分で考える』ようにするため、あえて地図の存在を口にしない土屋先生。
ただその表現には多くの誤解を招きそうなものがあるが・・・
「ちょっとツッチー?待ってよ。帰ろうってば。」
せっかくだから海を見せたい(自分も行きたいのだろうが)な土屋先生は、光君の言葉にも足を止めずにまっすぐ海を目指す。
レストランの立ち並ぶ通りを抜けて、まっすぐ南の方行に向かう土屋先生。
後ろでは文句を言いながらもちゃんと付いてくる光君。
「・・・ツッチーってばさ!!」
「海だ。」
「え?」
土屋先生の指し示す方向に海が見えた。
光君もその方角に目をこらす。
「・・・ホントだ!!」
海が近いとわかった途端、今度は先頭をきって走り出す光君。
「・・・現金な奴」
二人は海岸沿いの大通りを渡り、海沿いの広い歩道に出た。
「うわぁ・・・きれいだね。」
そう言って振り返る光君に、
「そうか?海そのものはそれほどきれいではないと思うけど。」
とつれない対応の土屋先生。
「あ、いや。ほら。さぁ・・・この町並みとか!!」
「うん。確かにね。この海に向かって続くたくさんの建物は印象的だ。」
「でしょでしょ?」
「ちょっと浜に下りてみよう。」
そう言って歩道に沿うように作られている階段に向かう土屋先生。
『この海を右手に眺めながら自転車で走ったらさぞ気分がいいだろうなぁ・・・次はスペインからイタリアまで走ってみるかな?』
次なる挑戦者(犠牲者?)をつれてこの海岸を走る計画が今、土屋先生の中で膨らんでいる。
「・・・どうしたの?ツッチー。」
「ああ、いやいや。なんでもないんだよ。」
「ホントに?」
土屋先生、一歩間違えば『列車をキャンセルしてこのまま自転車でベネチアまで走ろうか?』と言い出しかねない。あまり刺激しないほうが身のためだぞ。光君。
「・・・まぁいいや。そろそろ戻ろう。いい時間だ。」
そう言って時計を見る光君。
そしてそれにうなずいて光君に続く土屋先生。
海へ向かうときの不機嫌さなど、まるでなかったかのように軽やかな足取りの光君。
景色を眺めながらさっそうと自転車をこぐ。
「できればここで何か食べたかったね。」
駅を出るのを嫌がる割にはレストランに興味はある。
土屋先生も、『何か食べに』といって連れ出せばよかったのかもしれない。
ただ、この街のレストランはそれなりに値段が張るが。
駅に戻った二人。
次なる目的地はベネチアだ。
水の都ベニス。
日本でもその名を出して知らぬものはほとんどいないだろう。
ベネチア・サンタ・ルチア駅へはミラノで一度乗換えをしなければならないのだが、ほとんど直通のようなものだ。
ヨーロッパがEUとしてまとまりつつある現在、国境はほとんど意識されない。
ニースからミラノ。
フランスからイタリアへの国際列車。
実はここに、土屋先生も気付かない大きなトラブルの種が転がっていたのだった。
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