アメリカ旅行記 (三日目)

 

 

 

三日目

起きたのは七時少し前くらいだったか
腹一杯食べて、フカフカの布団でぐっすり寝たためか、すこぶる快調である。

便所行って、顔洗って、昨日買っておいたピザを食べる。
そんなこんなでバスの乗車時間がやってきた。

管理人夫婦にキーを返して、グレイハウンドへ向かう。

到着・・・乗車まで、まだ10分ちょい程時間がある。
待っている間、切符売り場近くの待合室にいたのだが、ガラの悪いにーちゃんだらけでカナリおっかなかった。

時間・・・乗車。


ラスベガス行きバス

なんかやたらと頑強な感じのバスだったな。
ドアなんか、全くドアだと気付かなかったし。

とにもかくにも乗り込むべし。

乗り込むのが遅かったせいか、三人ともバラバラの席となる。
俺の隣は、やたらと幅を取ってくれやがる中年太りジジイ。
こんなのとずっと隣同士で行くというのだから気が滅入る・・・誰か代わってくれ。

何はともあれ出発。

すぐに町を抜けて、だだっ広い荒野の中を走る。

延々と荒野を走り続けること・・・・・ン時間、よくわかんない。

座席の意地悪な形状と、ジジイの豪快なイビキのせいでほとんど眠れん。
本気で気が滅入ってきた。誰か隣のジジイをなんとかしてくれ。

途中、荒野の中にある小さな町でトイレ休憩。
駐車場の隣にマックがある。
御手洗いはマックで済ませてこいだとさ・・・よーゆーわ。


荒野のど真ん中にある町

再出発。
再び、延々と荒野の中を走り続ける。

見事なまでに岩と砂しかない。
アムトラックのときは、ある程度木々や草花なんかもあったのだが。

西部劇に出てくるような連中は、この荒野をロクな装備もなしに越えてきたわけだ・・・・・ビバカウボーイ。

もうン時間かしたころ、前方に巨大なカジノホテルが見えてきた。
む・・・カジノってことはラスベガスか。

ぶっぽーん。
大河に隣接する『リバーサイド』なる町である。
ここは寄らずに通過するだけ。
やたらと高い建物が多い割には、町の規模は先ほど寄った町と変わらないように思えた。

リバーサイドを離れ、更に荒野を進む。
隣のジジイにほとほと嫌気がさした頃、前方に住宅街が見えてきた。今度は大きい。

ラスベガスだ。やっとこさ到着。
渋滞のため、街の入り口から停車場まで、そこそこ時間がかかった。

降車後の一言。
くたばれ腐れジジイ、節々いたーい、なんだこの暑さは。
一言では済まんなー。

停車場の周辺は企業系のビルばっかし。
カジノホテルは至るところに分散しており、街中はバスで移動するんだそうな。

とりあえず銀行を探す俺ら。
MJ Research御一行にけっこうな金額を代えてはもらったものの、まだドルは足りない。

もう周り中、銀行だらけである。
『BANK OF AMERICA』を始めとして、大銀行がズラリと並ぶ。

今日は平日、しかもここはある意味お金のメッカでもある。
ここまで好条件が揃っているのである。不安要素など何一つない・・・はず・・・ないはずだったんですけれど。

近場の銀行に入る。
Tさんがカウンターへ両替を頼みに行った。

しばらくして戻ってきたTさんだが、何やら暗い表情。

トト「・・・? 不景気な顔して、どうしましたTさん?」

T「両替・・・できないそうです」

トト・W「・・・はい?」

なんでもここいらの銀行では、銀行のサービスを利用する場合、何をするにしてもまず銀行口座が必要になるんだそうな。

ここまで両替に苦しめられるとは。
もーなんつーか・・・今回、こればっかだな。俺たちドルに呪われてるんじゃなかろうか?

周辺の銀行を手当たり次第にあたってみるが、全て空振る。
なんとなく10歳は老け込んでしまったかのような表情のジャポン三人組。

いっそのこと、口座つくっちまおうか・・・みたいな案も出た。
しかし手続きにお金がかかる・・・のはいいとしても、けっこう時間がかかるらしいので却下となる。

某銀行マンに、どっか両替できそうなとこがないか聞いてみた。
おっさんは、カジノホテルのある方角を指差し、ほにゃほにゃーらとしゃべる。
どうもあっちの方(カジノのある方角)で両替してもらえ・・・みたいなことを言っていたらしい。

クソ暑い中、移動開始。

汗ダクダク・・・このままでは脱水症状起こしかねない勢いだ。

怪しさ120%の通りを抜けて、片側二車線の大通りにつき当たった。
通り沿いにampmがあったので、水分補給に立ち寄る。

比較的安価だったため、2リットルペットを二本購入。
三人とも腹がタプつくくらいにガブ飲みした。

焼けるような暑さと、冷えたうまい水だ。
天国と地獄の狭間で頭がボヤつく。

ボヤついたままの頭で通りを見回す・・・と、前方に『JACK YEN CHECK(たしかこうだったハズ)』なる看板印の建物を見つけた。

トト「TさんTすぁ〜ん・・・なんかあすこに円(YEN)とか書いてありますよ〜」

T「あ・・・ほんとだー・・・ちょっと行ってみまひょうか〜」

見るからにただの会社であるその建物へ、なんの迷いもなく入って行ったあたり、俺たちの精神力は相当深刻な馬鹿の領域へと突入していたに違いない。

馬鹿に恐いものなどなっしんぐ・・・堂々と正面玄関から入る。

受付にいたのは30前後の兄ちゃん。
俺たちを見て怪訝そうな顔をする。

T「ヘイ兄ちゃん・・・両替してくんないカ?」

兄ちゃん「・・・ハァ?」

なんだこいつら・・・みたいな顔される。まぁ当然か。

T「いや、だからサ・・・俺らドルなくて困ってんのヨ」

兄ちゃん「何言ってんダ? ワケわかんねーヨ」

しばらく話すTさんと兄ちゃんだが、まるで話が噛み合わない。

兄ちゃん「お前ら日本人だよナ? ちょっと待ってナ」

ピッポッパッっと・・・兄ちゃんがどこかに電話をかける。

まさか警察?
むぅ・・・この時はその可能性も十分にあったんだよな。なんて危ないことしてんでしょう俺ら。

少し話した後、こっちを向く兄ちゃん。

兄ちゃん「このまま奥に進みナ・・・社長が話を聞くってヨ」

案内されるがままに、小奇麗なオフィスを抜けて社長室へくる。
快適な空調のおかげで、大分頭も冷えてきました。ところで俺らなんでこんなとこにいるんでしょうか?

社長は恰幅のいい爺さん。
いかにも的なデスクを構え、俺らを見るとニカッと笑った。

ジャック「よく来たなニッポンジィン・・・俺の名は『ジャック』ダ、ハッハッハー!」

社名のジャックはこの爺さんのことらしい。
でもって『ジャック イェン チェック』は爺さんの通り名なんだとさ。

ジャック「俺、ニッポン大好きダー。俺、ニッポンのこと詳しいゾー、ハッハッハー!」

・・・とのこと。
周りをよく見ると・・・なるほど、日本所縁の置物や飾りがわんさと置いてある。
『YEN』と名のつく会社にきたら、そこの社長が日本フリーク・・・とはね。偶然と必然について思い悩む。

爺さんはニンマリと笑うと、一枚の写真を取り出した。
写真には爺さんと・・・どっかで見た顔の関取がツーショットで写っていた。

T「これって・・・」

W「まさか・・・」

ジャック「ア、ケ、ボ、ノ」

そう・・・写真に写っていたのは曙だった。
この爺さん、相当な日本マニアだな。

その後も、爺さんの御自慢の品を次々と見せられる。
一通りのコレクション自慢が終わってから、ようやく本題に入った。

ジャック「・・・デ? お前ら何困ってるっテ?」

T「あー、そうそう。俺たちさー・・・」

一通りの境遇をTさんが伝える。
爺さんは一通り聞いた後、頷いた。

ジャック「オーケー、分かっタ・・・ちょっと待ってナ」

そう言うと、爺さんはどっかに電話する。
電話相手と少し話した後、受話器をこっちによこす。

ジャック「トモダチのニッポンジィンダ・・・彼なら分かるダロー」

たしか・・・川口さん・・・だったはず。
一通りの境遇を話す。

川口「えっ? 両替しないでこっちに来たの? はっはっはっ・・・ばっかだなー君たちー」

ええ・・・馬鹿ですとも。つい先ほど再認識したばかりです。

川口「両替だったらカジノに行きなさいよ。たしかしてくれたはずだよ」

よくよく考えてみれば、ここって世界中から人が来るんだよな。
柔軟な両替はカジノの基本・・・なんで気がつかなかったんだ。
もしかしたら、某銀行マンもこのことを言っていたのかもしれんね。

礼を言って電話を切る。
爺さんが再びニンマリと笑う。

ジャック「今の男、カワグチの通り名ナ・・・『カワグチ ドル チェック』って言うんダヨ」

三人「・・・・・」

『ジャック イェン チェック』に、『カワグチ ドル チェック』

あんたらの本職って漫才?
YENとDOLLARのつく看板を見かけたら要チェックやな。

爺さんに礼を言って、ジャック イェン チェックを後にする。

目指すはカジノ街。
歩いて行くのはしんどいので、バス停を探す。

バス停見つけてバスに乗る。
方角が分からず30分くらい迷うも、無事に到着。

地球の歩き方によると、けっこうな数のカジノホテルがあるらしい。
適当に、一番古いという『サーカスサーカス』に決定した。


サーカスサーカスの前

で、カジノ街の感想なのだけれど、アメリカが世界に誇る娯楽都市としては、なんだかあまりパッとしない感じがするのは気のせいだろうか?
ストリートは小汚いし、建物なんかの外観も古臭い感があるし・・・何より飾り気がイマイチだ。
もっと色々とド派手かと思ったんだがな。

とにもかくにも中に入る。
スロットマシーンやら、ルーレット台なんかが数え切れないくらいあるが全て無視・・・目指すは両替所オンリー。

で・・・発見。
カウンターにいるのは40くらいのオバチャン。さっそく円で両替できるか聞いてみる。

T「ヘイ、おばちゃん・・・ここで円を両替できるかイ?」

オバチャン「あン? できるけド」

オッケー!
親指を突き立てる三人。

T「で、レートはどんくらい? 一万円で何ドルになるかナ?」

オバチャン「円だよネ。エート・・・一万円で50ドル」

T「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

ババア「だから一万円で50ドル」

T「・・・・・・・・・・・・・も・・・もう一回ヨロシク」

クソババア「一万円で50ドルだってノ!」

・・・・・・・・・・

10000/50=200

1ドル200円

なんつーかさ・・・法外とかそういうレベルをぶっちぎりで超越してないか?
これって一体何年前のレートだよ。

時代錯誤罪で訴えるぞコラァ!

さすがに何かの間違いだろう・・・ということで、ババア以外の店員にも聞いてみるが、全員同一アンサー。

さすがは一番古い・・・もとい歴史のあるカジノホテル『サーカスサーカス』。
でもさぁ・・・いくら伝統重んじてるからって、レートまで伝統守んなくてもいいんでないの?

LA国際空港のレートが妥当だと錯覚してしまえる程のボリボリ100レート・・・・・アリエナーイヨー。

親指を突き下ろしつつカウンターを離れる。

さてどうするか。
相談の結果、他のカジノでも同じレートなのか確認してみることになった。
サーカスサーカスを出て、目の前のカジノ『リビエラ』に入る。

両替カウンターに直行。
カウンターにいたのは、なんとなく『ボブ』という名前が似合いそうな黒人男性。

開口一番『レートはいかほど?』

ボブ(勝手に命名)「円かイ? エート、ちょっと待っテ・・・・・・・・・・1ドル116円だネ」

ビバ、リビエラ!

さんきゅーさんきゅーボブさんきゅー・・・・・つーか、潰れろサーカスサーカス。

歓喜するヤーパン三人組。
『こいつら何こんな喜んでんダ?』みたいな顔で俺らを見つめるボブ。

すかさずサーカスサーカスのレートを教えて差し上げると、唖然とした顔で『シンジラレナーイヨー』ポーズなボブ。

もうドルに悩まされるのは懲り懲りなんで、今回の旅行に必要な金額分、ここで全て替えてもらうことにした。
旅行三日目の夕刻にして、ようやくドル欠呪縛から開放されるに至る・・・やれやれだ。

ホッとしたせいか、猛烈な空腹感が襲う。
そういや、朝のピザ以降なんも食ってなかったし。

もうなんてゆーか、とことん食べたい気分だったので、バイキング形式の『ビュッフェ』に入る。
このビュッフェ・・・どこのカジノホテルにも一つはあるらしい。

前払いで一人8ドルくらいだったかな?
あとはもう動けなくなるくらいに食べて食べて食べまくる。

食後のデザートってことで、ケーキを持ってきた。
さっそく口に運ぶ・・・が、

激甘!

なんだこの甘ったるさは。
砂糖の塊かと思う程に甘い。あまりの甘さに、ほとんど手をつけずに残してしまった。

Tさんによると、日本にあるような洗練された程よい甘さのケーキは、世界でも数少ないそうである。

余談だが、隣にいた15、6のねーちゃん三人組が、そのケーキを馬鹿食いしてたな・・・見てるだけで御馳走様デシタ。

ビュッフェを出る頃には、もう既に午後六時過ぎになっていた。
ちょっとその辺歩いてみますか・・・ってことで表に出ると、世界が変わっていた。


リビエラの前

昼間のショボさはどこへやら・・・ってなくらいに辺りが一変していた。
あまりの煌びやかさと、騒がしさにしばし唖然とする。
なるほど、ラスベガスは夜の街か。

周りの雰囲気に呑まれて血が騒ぎ始めた。

さぁ得物も得たことだしギャンブるか!

適当に周辺のカジノをうろつきつつ、手当たり次第にスロットをまわす。
1ゲーム1セントから100ドルまでと、掛け率設定は幅広い。

っていうか、100ドルスロットなんてホントにあるんだな。
ゲームの中だけかと思ってたよ。一体、どんな御大臣がまわすのやら。

貧乏人から金持ちまで、幅広く楽しめるようにできてるあたり、流石はラスベガス・・・と言ったところか。

最初は50セントスロット付近で勝負するも、なかなか当たらない。
んで、1ドルに代えた途端にビンゴ!

ジャラジャラとコインが落ちてくる。
調子こいて更に続けると、また当たりがきた。

この瞬間がピーク・・・約80ドル弱か。
まぁ低額スロットならこんなもんでしょ。

んで、更に調子こいて続けてたら、アッという間に半分まで減る。

慌ててキャンセルし、他の台へ移るもやはり当たりは出ず。
結局、儲けが10ドルにまで減ったところで打ち止め・・・まるで転落人生のようだ。

最終成績

Tさん・・・一時はマイナス30ドルにまで落ちるが、起死回生の一発当てで、最終的に20ドルの勝ち。

W・・・ゼロ付近を行ったりきたりで、結局最後はマイナス1ドルに落ち着く。

俺・・・一時は80ドルまで勝ち上がるも、その後全くと言っていいほど当たりが出ず、10ドル勝ちで終了。

賭け事ってのは、モロに性格の表れるものなんだなぁとシミジミ思いマシタ。

カジノを出て、近くのマックで一息。

喉が渇いたので、ジュースとポテトだけ注文。
で・・・だ・・・Lサイズものを頼んでみてびっくり。


写真だとイマイチ伝わらないか

すげぇサイズだった。
特にポテトは、日本のLサイズの二倍近くあるんじゃねーかってくらいに大きい。

何はともあれ、今後の予定を話し合う。

ラスベガスで一泊して、明日の朝一にアムトラックでロサンゼルスへ戻るか、もしくはアムトラックで車内泊するかということだったが、車内泊の方がお得なので、あっさりと後者に決定した。

地球の歩き方によると、ユニオン駅はグレイハウンドのすぐ近くにあるとのこと。
バス乗って、グレイハウンド停車場へと向かう。

で・・・だ。
地球の歩き方の地図に載ってる『ユニオン駅』なる場所にやって来たのだが、

駅がねぇ

何度も地図を見直し確認するが間違いない。
でもたしかに地図には丸印で『ユニオン駅』と書いてあるのだ。

隣のカジノの名前は会ってるし、線路はあったし、列車も走ってる・・・貨物だけど。

聞き込みするも『ハァ? んなもんないヨ』と即答される。

むかついたので、周辺を2時間近くにわたって探索・・・カジノ街外の夜道をズンズン歩きまわる。
後ほど聞いた話だが、これはかなり危険な行為だったみたいで、死の危険性もあったとか。
まぁ確かに、危ない兄ちゃん達をたくさん見かけたっけ・・・・・おーコワ。.

が、結局駅は見つからず。

ありえねぇ。こいつはちょっとばかしありえねぇだろ。
たしかに載ってるんだ! ユニオン駅って!

地球の歩き方の嘘つき! お前なんか『地球の迷い方』だ!

どうもラスベガスからロサンゼルスへ向かうには、空路かもしくはグレイハウンドしかないとのこと。

仕方がないのでグレイハウンドへ向かう。
バスの時刻を確認すると、明日の朝六時だそうな。

もう日付も変わろうかという時刻である。今更ホテル探してもほとんど眠れまい。

意気消沈した俺らは、近くのカジノホテル内にあったマックで小休止するが・・・あまりの・・・疲労に・・・落ち・・・た。

 

(四日目に続く)

 

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